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北海道に憧れ、北海道を愛し、しっかりとたくましく北海道に根を下ろしている人々のドキュメンタリー。

2007年4月。道路とレールを自在に行き来できる、世界初の新しい乗り物”デュアル・モード・ビークル(DMV)”が 実用化に向けた”試験的営業運行”を全国に先駆けて開始しました。 北海道の網走市と小清水町を結ぶ片道およそ11kmの区間において、線路走行・道路走行を体験することができます。 今回はそんな夢の乗り物を開発したJR北海道の取締役副社長である柿沼博彦氏にインタビューさせていただきました。 DMV開発において柿沼氏は”コロンブスの卵”であったり”ダーウィンの進化論”などという言葉に例え、 興味深い話しを数々と聞かせてくれました。
再生にはQuickTimeが必要です。
DMVはJR北海道(北海道旅客鉄道株式会社)が開発した「鉄陸両用車両」であり、
およそ70年前から世界で開発に挑戦されてきた乗り物だ。
英国、ドイツ、オーストラリア。国内では旧帝国陸軍や旧国鉄が挑戦してきたが、成功への道のりは遠かった。
そんな中JR北海道はわずか10年で開発に成功し実用化に向けあと一歩というところまで辿り着いた。
DMV(デュアル モード ビークル)とはDual=2通り、Mode=方式、Vehicle=車両の略。
北海道生まれのDMVは世界で初めて開発に成功した”道路とレールを自在に行き来できる乗り物”だ。
JR北海道は全国に先駆けて平成19年4月よりJR釧網線の浜小清水駅(小清水町)
〜藻琴駅(網走市)間で試験的営業運行を開始している。
このDMVという車両の開発に至る経緯を柿沼氏に聞いてみた。
「JR北海道では現在の営業距離は道内で2,500kmあり、その2,500kmの利用者をみてみると1/3の800kmが1日平均輸送人員500人未満。
朝の学生さんやサラリーマンの利用が終わると5人や10人の利用でしかない。
これが1日500人未満というイメージです」
もともと鉄道とは大量・高速輸送というイメージで発展してきたが、
この状態では鉄道の使命はある意味無くなってしまったと言っても過言ではないと柿沼氏は言った。
鉄道の使命がなくなった線区やなくなりつつある線区を今までは「ワンマン運転」「無人駅」などといった
企業努力でコストダウンを図ってきたがこれでは限界があると考えた。
「廃線してバスを運行するという方法もありますが、鉄道というのは北海道において100年の以上の歴史があります。 そういう意味から100年以上もの間、おじいちゃん、おばあちゃんの代から当たり前に鉄道が走っていました。 その鉄道を廃線にしてしまうことは、どんなに我々が苦しくてもノスタルジア(郷愁)というべきでしょうか、 なかなかその想いは割り切ってはいただけないと思うのです」JR北海道は鉄道の効率化を図りながら、 地元の人々の想いも叶えたいというジレンマに悩まされていた。 そこでもう一度知恵を絞って、全ての問題がクリアになる「新しい乗り物ができないか」 と考えたのがDMV誕生のきっかけだった。
約70年もの間、世界中の開発者達は試行錯誤し開発を続けたが成功には至らなかった。
JR北海道もDMVが誕生するまで決して平坦な道のりではなかった。
ある時、柿沼氏をはじめ開発プロジェクトチームは物事の考え方を改めたという。
「これ以上お客様が来てくれるとは思わない。そういう考えで、今現在ご利用いただいてるお客様にサービスできる乗り物にしようと考えました」
そう考えると自ずと答えが出てきたようで、それが「身の丈システム」だ。
限られた人数を運ぶ=小さい乗り物で良い。身の丈に合った小さい乗り物であればマイクロバスが使える。つまり道路も走れるというわけだ。
これまでにもこのような発想はあったものの、具体化する為のアイデアがなかったという。
柿沼氏はこう話す。「私がよく使う言葉なのですが、物事を進めるうえで”発想”と”着想”ということを考えます。
物の考え方や思いつきを”発想”といい、”着想”とはその発想を具体的に実現していく考え方を言います。
そういう意味では発想はあったけれども着想がなかったと言えるでしょう。
その着想がマイクロバスならレールの上に収まりそうだ。そんなところから現実化してきたのです」
世界の鉄道の中ではおよそ70年前に挑戦が始まったが、ことごとく失敗に終わった。
「いわゆる”鉄道屋さん”が道路も走れる鉄道を造ろうとした形跡がみられるわけです。そこで我々は視点を変えて
線路を走れるバスを考えました」このように逆の視点から物事を見る事により解決に至ったという。
そのマイクロバスに着目する事で全てが具体化されてきた。マイクロバスは後輪がダブル車輪になっており左右で4本。
このうちの2cmほどフライホイルを内側にオフセットすることにより、ちょうどレールに乗ることが可能となり、
そのまま走らせることができると考えた。
このDMVの最大の特徴である「オンレール・オフレール」の切り替えは、過去の開発例をみると15分以上を要していたのに対し、
10〜15秒という短時間で可能となったことだ。
「この仕掛けは道路からマイクロバスがレールに入った時に停止した部分のレール幅を7cm程度広げ、
そこから徐々に線路を絞り込んでいき、本来の幅である1,067mmの線路に合流するという仕掛けです。
これによりスムーズに鉄輪をレールの上にのせる事ができます」
この仕掛けを聞く限りでは、一見誰にでも思いつきそうな事かもしれない。
「聞いてしまえば自分にもできると思われがちですが、それがまさに”コロンブスの卵【※1】”なんですよ」
まるで無邪気な子供のように目を輝かせながらこう話してくれた。
発想を持って7年、着想に至って3年。ローカル線存続を望む地元住民の願い、
そして少子高齢化時代の中で、弱者の為の交通手段を残したいと考えるJR北海道の社員達の切迫感。
そんな思いがあったからこそ成し遂げられたといっても過言ではない。
【※1.コロンブスの卵】…1492年、西インド諸島を発見したのがコロンブス。その時にコロンブスが見つけなくても、
いずれ誰かが見つけただろうという皮肉に対して、テーブルの上に丸い卵を立てられるかという有名な話し。
コロンブスは卵を叩き付けて殻を割り、テーブルの上に立たせた。聞けば、見れば誰でも思いつく事かもしれないが、
それを一番最初に行ったことに大きな意味がある。
マイクロバスに着目してからは急速に開発が進んでいった。
開発当初は廃車寸前の送迎専用で使われていた中古バスを買ってきて作り始めた。
現在運行しているのは3台。開発当初のものがマニュアル車(MT)で1台、オートマチック車(AT)が2台という内訳だ。
AT車はMT車にはできない利点がある。例えば電気指令によりアクセルやブレーキを踏む事が可能となるため、
連結して走る事ができる。そうすることで”定員”を倍にすることも可能となった。
「今から3年半前のマスコミへの発表後、関心を持った地方の第3セクター関係者から1日も早い実現をとの声があり、
もう少し定員を増やす事はできないだろうかという部分から改良を加えました」
しかし定員を増やす為には単純に小型バスを中型・大型に変えれば良いというわけではなかった。
理由は「レールの上にレール幅の約3倍もあるゴムのタイヤがのって走るわけです。
例えるならハイヒールのかかとの上にタイヤがのるようなもので、ゴムのタイヤはひとたまりもなくなってしまいます」
ゴムタイヤにより重量6tを支えるにはマイクロバスが丁度良かった。さらにはマイクロバスでなければレールの上には収まらない。
DMVは前後に鉄輪(ガイド輪)をつけて線路を走るが、前輪と後輪の間の長さが6m。
中型や大型だと8mや11mとなり曲線を曲がる事ができなくなる。そういう様々な理由からマイクロバスでしか成しえなかったことなのだ。
この新しい乗り物が求められていることを聞いた。
「ひとつは”ローカル線への対策”もうひとつは”夢の乗り物としての活用”だと思います。
現実的にここまで出来上がると一般の方や鉄道関係者など多くの方から色々な使い方ができるのではないかと言われました。
ローカル線に留まらず、地域の活性化や交通アクセスができなかったところなどに、
知恵を絞って使ってもらう事が大事なことですね。必ずそういう乗り物になるのだと思いますよ」
あくまでもDMVはマイクロバスだ。人数や道路走行上での制約はある。しかし新たな交通手段としては限りなく可能性が広がる。
一昨年、北見市から女満別空港まで走らせたことがある。
「女満別空港から鉄道までの一番近い距離には”西女満別駅”という無人駅があります。空港から駅までを直線にすると500mくらいなのです。
しかし高台にあるがために鉄路を引く事はできません。
もちろん傾斜角を抑える為に迂回するなどの方法がありますが、それでは莫大な建設費がかかります。
また、年間利用者が130万人クラスの空港において鉄道がアクセスしているところはありません。
宮崎空港で330万人、仙台空港では300万人弱です。一方の女満別空港はというと130万人ほどです。
少なくとも300万人の利用者がいないと厳しいものがあります。
しかしDMVを利用する事で空港まで乗り換えることなくアクセス出来るのです」そういう意味で女満別空港での試験が行われたという。
DMVの利点を多く聞いたが逆に今後の課題も聞いてみた。「よく話題に出るのが病院や学校、役場に行く手段としての線と面の輸送が出来る。
色々な使われ方が考えられるのですが、その使い方によっての”ルール”をどのように作るかというのが最大の課題です。
既存のルールでは本来の目的を達成できない。鉄道という乗り物ですから、安全という部分では”担保”出来なくてはならない」
そういうことを日々考えながら既存のルールで走らせ、様々な検証を行いデータを取る。これが”試験的営業運行”の意味だ。
試験的営業運行についてさらに詳しく話しを聞いた。
「これにはできるだけ多くの距離を走り、データを積み上げております。
人によっては感じ方の差がありますが、線路の上を走る際、
車輪の径が少し小さい為に線路と線路の繋ぎ目部分で落ちる感覚になることもあるらしいです。
通常の鉄道より乗り心地の面で違うという話しはありますね」
ただし、運行する上での問題点は現在のところはない状況だ。
「お客様には線路と道路からの景色が二度楽しめると評判で、浜小清水と藻琴の間は”原生花園【※2】”の中を通るので観光には最適です。
おまけに線路は高台になっているのでオホーツク海も眺められます」
現在この区間を試験的に運行しているわけだが、北海道はいたるところに最高のロケーションが存在する。では何故この場所を選んだのか理由を聞いた。
「理由のひとつはローカルの場所に鉄道の変わりとしてDMVを置き換えて走らせた際、どのような状況が生まれるのかということです。
これには我々も想像がつかないものでした。ただどうせなら観光としての役割も担いたい。
そんな理由から”知床【※3】”に近い場所という運びになったのは事実ですね」
その他にも雪の少ない地域であったり、一区間がおよそ11kmという距離は試験を行う上で最適であったことなどがあげられた。
現在全国で7カ所の自治体等がDMV導入に前向きだ。そもそも北海道でのローカル鉄道の効率化を図る為に開発されてきた車両であるが、全国には北海道と同じ悩みを抱えている地域も少なくはない。「困っている人達がいれば是非とも使って欲しい。
それが公共交通の最大の役割だと思うのです」と柿沼氏は真剣に語った。
「試験的営業運行が始まりました。ある意味では3年間で実用化したというわけですから、
国を含めて様々なところからご協力をいただきました。しかし、
まだ本来の意味であるローカル線の為に役立てるという乗り物にするにはこれからなのです。
ですからもっとたくさんの方達に関心を持っていただき、応援をしていただきたいと考えます。
このDMVはローカル鉄道だけでは生きられなかった。だから道路も走るようになった。
つまり進化したのです。逆を言えば道路だけでは生きられなかったから、
線路を走るようになりました。動物に例えるのなら、海だけでは生きられなかったから陸に上がったようなもので”ダーウィンの進化論【※4】”とでもいいましょうか、DMVは”両生類”なのです」
インタビュー後、柿沼氏と雑談をさせていただいた。もともと技術者として旧国鉄に入社したが、
実は鉄道とは無縁の中で育ち、入社後に鉄道に興味を持ったのだという。
最後にDMVが実用化されたことを通じてこんなメッセージをいただいた。
「人は何かをするときに自ら物事を難しく解釈してしまうけれど、簡単な事で簡単に解決できることがベストなのです」
この新しい乗り物に様々な未来のヒントが隠されているように感じた。
そして近い将来、DMVが当たり前のように街中を走る姿がとても待ち遠しく思えた。
【※2.原生花園】…網走国定公園に指定。国道244号線沿いに面しており、
オホーツク海と濤沸湖(とうふつこ)に挟まれた約8kmの細長い砂丘。
オホーツクの短い夏にはセンダイハギやヒオウギアヤメの群生が群がる
【※3.知床】…平成17年7月に国内3番目の世界自然遺産として登録された。
斜里郡斜里町と目梨郡羅臼町の二つの街を併せて「知床」と呼ぶ。
【※4.ダーウィンの進化論】…進化の仕組みを研究した科学者。「種の起源」の著者として知られる。
有名な言葉に「この世に生き残る生物は、最も強いものではなく、最も知性の高いものではなく、最も変化に対応できるものである」
JR北海道 ホームページ
DMVの詳細はこちらから
■DMV開発年表
平成14年10月
プロジェクト発足
平成15年12月
試作車(901)完成
平成16年1月
901完成プレス発表
同年6月
901車検取得、学園都市線での走行開始(6/28〜8/31)
同年12月
日高線での冬季走行試験(12/13〜2/26)
平成17年3月
U-DMV(911・912)開発をプレス発表
同年4月
テストコースにおける自動車性能確認試験(4/15〜4/25:901)
同年8月
911・912車検取得
同年9月
911・912完成、石北線でのU-DMV走行試験(9/27〜10/29)
同年11月
テストコースにおける自動車性能確認試験(11/2〜11/11)
平成18年4月
学園都市線でのU-DMV走行試験(4/18〜7/27:911)
同年6月
DMV推進センター発足
平成19年4月
釧網線 浜小清水駅から藻琴駅間の試験的営業運行開始